国道50号線を岩瀬から笠間に向かって走っていると、立ちはだかるように道路の前方に山塊が現れる。国道と水戸線の線路は、その南側山麓を巻くように通っている。この山塊の中がどんな所なのか知る人は意外と少ないのではないだろうか。中に入るには、北側からの道路が一本だけ通じてるのみで、他に峠越えの山道があるにはあるが、今ではほとんど消えかかっている。2年前、僕はGoogleマップで空から見て大変興味が湧いて、それ以来、季節ごとに何度か訪れている。
ここは桜川市の東端で、山の向こうは笠間市である。周囲を、標高三、四百メートルの山で囲まれた、極小さな盆地、むしろ凹地と言う方がいいかもしれない。中央が平坦になっていて、田んぼが谷川沿いに連なっている。その間に、旧家らしい大きな長屋門の農家が点在している。昔は4軒だけだったが、現在は8軒に増えたそうだ。このような外部から隔絶したような所でひっそりと暮らしているのが気になって聞いてみたら、祖先は加賀から来たという。昔、遠い昔、何か歴史の出来事があって、遥か遠くからこの地に来て百姓となったのだろう。そして、何百年もの時間が過ぎた。
高台から見渡すと美しい! 静かだ! 聞こえるのは小鳥の鳴き声だけ。
山里全体が緑一色に埋もれている。折からの夏の日差しが白壁を照らしている。
こんな隠れ里のような里が、岩瀬や笠間の街並みの近く、激しく車の行き交う50号線のすぐ近くにあることが、奇跡のような気がする。