笠間湖へ

 誰でも、その気になれば、自分が好きになる場所は、近くでいくらでも見つかると思う。
僕が、一番気に入っているウォーキングの場所は笠間湖である。これは治水や水源確保を目的に1991年に竣工された飯田ダムの人造湖である。湖岸は谷が複雑に入り組んで自然環境が豊かである。四季折々の森と谷と水の風景が美しい。周遊道路が整備されていて、一周すると約4.8kmある。でも、公園では無いから、いつ行っても人影はまばらだ。道路は木々に覆われているので多くの野鳥が観察できる。また、湖面には、多くの種類のカモ類が見られる。今日は、ミコアイサ、マガモ、コガモ、キンクロハジロ、カワウなどが見られた。運が良ければ、ヤマセミにも会えるらしい。

笠間湖

 僕のウォーキングの目的は、足腰を鍛えるのは当然だが、この野鳥観察もある。だから、首から双眼鏡をぶら下げてキョロキョロしながらゆっくりと歩く。途中で、ジョキングしている同じ女性が何度も追い抜いて行くので、聞いたら3周目だという。恐れ入った!毎日15km以上を走っているそうだ。

飯田川

この周遊道路の途中には、谷にかかる橋がいくつも掛かっている。僕は、この橋の上から眺める景色が好きだ。谷の両側から木々が茂り、水面に影を落としている。今頃の繊細な落葉樹の枝先もいいが、もう直ぐすると木々が芽吹いて一面が柔らかな黄緑や赤茶色に覆われる。さらに一斉にヤマザクラが咲いて、山肌がピンクに染まる。サクラの花びらを踏んでのウォーキングとなる。
 ダイサギが餌を探している。深い青藍色の水面に純白の鳥の姿が映る。静かだ。ふと、「明鏡止水」という言葉を思い出した。

 この深い山中の湖のような場所に、僕のところから40分もすれば行ける。これから、ますます美しい季節になる。是非、お弁当とコーヒーを持って訪れることをお勧めしたい。

星空カフェにて

 昨夜は、八郷の丘の上にある某カフェで、時々開かれる『星空カフェ』に参加した。子供の頃、紙筒にレンズを取り付け月面を見た時にクレーターらしいあばた模様が見えたときの感動は今でも忘れられない。それから何十年を経た現在、カフェのマスターが構築した最新のシステムを見せていただいて、その能力のスゴさに驚嘆した。はるか数千光年先の星雲や星団が、クッキリと鮮明に見えるのである、しかも、星の名前をパソコンにインプットすると、自動的に望遠鏡が動き目的とする星を捉えるのだ。光が弱くても多重露出の要領で複数枚の画像を合成して明るく鮮明に映し出す。望遠鏡とそれを制御するソフトウエア、そして画像処理技術の驚くべき進歩だ。しかも、このような信じられないようなシステムが、その気になれば一般人でも実現可能になったとは。

説明するカフェのマスター

 マスターから星雲などの説明を聞いて驚きはさらに大きくなった。部屋の大スクリーンに映し出されている映像は、現在の夜空に輝いているリアルの星々である。しかもその光は数千年前に発せられたもの。オリオン大星雲は1300光年、バラ星雲は5200光年、馬頭星雲は1500光年、そしてアンドロメダ銀河は250万光年・・・一光年は光が一年間かかって到達する距離である・・・・もう、全く思考が付いて行けない。想像すら出来ない。意識が無限空間を浮遊する。しかし、これらの星々は、この地球と宇宙空間でつながっている現実でもあるのに、もはや「あちらの世」であるかのようである。

バラ星雲


 しかも、このような超現実と思われる世界を、暖かな薪ストーブの燃える部屋で、食事をしたりコーヒーやお酒を飲みながら体験するという驚きに満ちた不思議な夜だった。

馬頭暗黒星雲

カタバミ

自宅の机の上で育てているハオルチアの鉢にカタバミの花が咲いていた。一年で最も寒いこの時期にもかかわらず、小さな鮮やかな黄色い花を咲かせている。咲き終わった花柄には、小さなキュウリのような果実が上向きに付いている。子供の頃、野外で遊び飽きると、この小さなキュウリをつまんで齧った。少し酸っぱいが、ガリガリした食感はキュウリそのものだ。僕が驚いたのは、その果実から弾き飛ばされた直径1ミリもの小さな種子が、机一面に散らばっていたことだ。誰もいない部屋の中で、長さ1センチぐらいの鞘から半径1メートルもの範囲に弾き飛ばされている。その数は100粒以上あるだろう。これでは条件さえ揃えばどんどん増えて蔓延るはずだ。

 でも、僕はカタバミは嫌いでない。むしろ好きな植物と言ってもいい。だから、ハオルチアの鉢に芽吹いた時も抜かずにそのままにしておいたのだ。何と言っても葉っぱが可愛い。ハート型の小葉が三つ向かい合っている。それに明るい日差しが当たると黄緑色の優しげな色合いになる。そして、夜になると花とともに静かに畳まれる。
明るい黄色の花と瑞々しい葉っぱと茎。それらが殺風景な僕の部屋に「いのち」の明かりを灯してくれる。今では、ハオルチアの鉢はすっかりカタバミが主役になった。

 昔の人もカタバミを好ましく思ったのだろう。草では珍しく家紋に使われている。葉っぱのデザイン性とともにその強靭さと旺盛な繁殖力が家の存続、子孫繁栄の象徴と見なされた。引き抜こうとしても、地面にしっかりと根を張っていて地上部が引き千切れても、またすぐに根元から生えて来る。可憐な姿をしているものの、どこの道端や空き地にも生え、少々の事では絶えることのないたくましさが人々の心を掴んだのだ。

 今度、散歩の折にでも身を屈めてカタバミをじっと眺めて欲しい。きっとファンになるだろう。

雪入

 今から2、30年昔、僕が初めて茨城県の集落を訪れたのは、この「雪入」だった。低山に挟まれた細長い土地の地形と「雪入」という変わった名前に惹かれて訪れてみたくなったのだ。最近読み直した堀江敏幸の『雪沼とその周辺』の解説で池澤夏樹も「日本の地名で、-雪-を冠したところは稀だ。・・・本来、-雪-は地名に選ばれる語ではないらしい」と言っていた。小説の「雪沼」は、どこにでもありそうなであるが、どこにも存在しない夢の中のような田舎町を象徴しているが、この茨城県かすみがうら市の雪入は実在する。

 しかし、やはり雪入集落は、何処と無く周辺の村々とは雰囲気が違っている。独特の時間が流れているような場所だ。その一つに「郷倉」が残されてる。雪入の郷倉は、文化九年(1812)に志筑藩家老横手郭応が設けたもので、凶年に備えて、年貢米の一部を貯蔵しておき、凶年には窮民へ無利子で貸し付けるという義倉である。昔、僕が初めて見たときは、長い年月を経てかなり痛んだ茅葺の小屋だったが、今日見たら屋根も建物も立派になって昔の面影はなくなっていた。ただ、このような倉が存在したということは、山間の狭い耕地の故に、悲しい飢饉の歴史があったのかも知れない。

雪入の郷倉

 現在の雪入には、中腹に『雪入ふれあいの里公園』があり、立派な『ネイチャーセンター』がある。ここは、実に気持ちの良いところで、これより東に高地が無いので空気の澄んだ日には鹿島工業地帯の煙突までが見える。公園の上部まで登れば、太平洋が見えるかも知れない。ここは昔の採石場の跡地を自然公園にしたもので、幾つもの凹地に水が溜まり池となっている。そこにカモ類が集まり、空にはオオタカやハヤブサなどが舞う。鳥を観察するのには絶好のところである。温かなコーヒーを飲みながら、夢中になって双眼鏡で鳥たちを追いかけていると、だんだん現実世界の憂さも忘れて、「雪入」という地名の本当の意味がわかって来る。

ネイチャーセンターの窓から

雨上がりの夕暮れ

午後5時をまわった。雨上がりの青柳集落は夕暮れに覆われた。あちこちの家から薪ストーブの煙が上がる。谷底に煙の香りが漂う。静かな時間がすぎてゆく。

小鳥のレストラン

 誰でも、食事は落ち着いたところでしたいもの。今、小屋の裏庭にあるレストランは大流行りだ。朝早くから、入れ替わり立ち代わり小鳥たちが訪れる。ここは、彼らにとって安心して食事が出来る場所なのだろう。それに、他の水場が凍って飲めないときでも、小屋のマスターが井戸水を入れておいてくれるので大丈夫だ。傍には、パンくずとキュイフルーツの入った餌台まである。

 今朝も、常連のヒヨドリのほか、シジュウカラ、メジロのカップル(?)、アオジ、綺麗なルリビタキの雄と地味な雌、それにシロハラがやって来た。昨日などは、ヤマガラ、シメまでが来た。彼らが5分おきぐらいに引っ切りなしに訪れるものだから、小屋のマスターは朝食のパンを片手に、双眼鏡を覗いたり、図鑑で確認したりと大忙しだ。

堀江敏幸さんの小説

 僕はそれほど小説を読んでいるわけではない。その少ない読書の中で、堀江敏幸さんの小説が気に入っている。20年ほど前に読んだときは、それほどでもなかったが、最近になって『河岸忘日抄』を読んだら、すっかり彼の世界に引き込まれてしまった。いま、続いて『雪沼とその周辺』を読んでいる。Amazonなどの感想を見ると、2、3ページ読んだだけで眠くなるとか、フランスの小説を読んでいるようだと賛否両論があるが、その文体の緻密さ流麗さは誰もが認めている。名文家であるのは間違いない。眠くなる人は、読んでいてワクワクするような波乱万丈なストーリーの展開を期待したからだろう。でも、彼の小説は全くそれとは反対で、ごくありふれた普通の人の日常の移ろいのなかにある人生の甘苦を切り取って精緻な文章で描いている。一行一句を、噛みしめるように読むとその滋味がじわっと広がる。昔読んだときは、それが味わえる歳ではなかったからだろう。歳をとるのも悪いことばかりではない。

ストーブの幸せ

小屋にもお正月は来る。昨日、今季初めて火を入れた薪ストーブで、おしるこを作っている。上に乗せて置くと餅が芯までこんがりと焼ける。
この安物ストーブとの付き合いも15年になる。この頃は、お互いの気心も知れて、薪さえ入れておけば放っておいても良く燃えてくれる。今、小屋の室温は29度。ピーと二人で「暑いね暑いね!」と言っている。頼りになる相棒だ。君と一緒だから陰鬱な冬を乗り切れる。

鹿島灘

海辺へ近ずいたら、突然「ドッド〜ン」と地響きがした。いつになく荒れている。それでも釣りをしている若者に「どう、釣れてる?」と声をかけたら、「ぜんぜん!」と返ってきた。海はいいな〜。

シモバシラ

 「シモバシラ」と言っても、これは植物の名前である。冷え込んだ今朝、もしかしてと思い、庭に出て「シモバシラ」を見に行った。見事に真っ白な氷の「花」が咲いていた。これは、Nさんに教えられて、昨年の秋に植えたばかりである。まだ小さいから今年は無理かもと思っていたが、見事に咲いてくれた。以前から、是非とも育ててみたかった草である。

 「シモバシラ」は、シソ科の多年草で、茎が枯れてもしばらくの間、根が活動していて、地中の水分を地上の茎の道管に送り続ける。それが凍って霜柱ができる。霜華という表現は、この植物のためにあるのかと思ってしまう。