不動坂

どこで石榴石が拾えるのかと聞かれたので、30年も昔の記憶を頼りに真壁の山を歩いた。断片的なわずかな記憶だけだ頼りだ。ありがたいことに地形や森の様子はそう変わっていない。でも、訪れる人はほとんどいないようだ。かつて道だったところは、一面草に覆われている。踏み跡もない。蜘蛛の巣を払いながら進むと、高いところから誰かに見られている気配がした。ふと、頭をあげたら、一枚岩の上の岸壁から、お不動様が見下ろしていた。石作りの立派な社に入っている。誰もお参りに来ている様子はないが、まだ信仰はかすかに生きているようだ。挨拶でもと思い、近づいたら、そのギョロ目の素朴な風貌を見て一挙に緊張が和んだ。

そこで、この山道は、昔、「不動坂」と呼ばれていたのを思い出した。