滝台古墳の次に、県指定文化財の「旧小松家住宅」を見学した。ここを訪れる人は一日に2、3人だから、当然見学者は僕一人だ。小松家住宅は、江戸時代中期の庄屋格の建物である。「曲り屋」で、土間が大きく曲がる「土間曲がり」であり、さらに馬屋がもう一つ曲がった「二つの曲がり」を持つ複雑な形をしている。家の中のどこもかも煤けて茶黒い。太い柱、曲がりくねった天井の梁が2百年の歴史を感じさせる。しかし、板張りの廊下や囲炉裏のある居間といい、掃除が行き届いていて黒光りしている。家を保護するために、毎日囲炉裏で火を焚いているそうだ。各部屋を見せてもらったが、その中で驚いたのは「さんべや (産部屋)」である。北側の奥まったところに、床に竹が敷かれた小部屋があった。実物を見るのは初めてだ。何か特別な部屋の感じがして、足を踏み入れるのは憚れた。何でも、元の屋敷を解体したところ床下に土盛りがあり、「さんべや」だと判ったという。
お産をするとは、日常とは異なった特別な行為で、各地に様々な習慣が残っている。僕が知っているのは、いわゆる「産屋(うぶや)」で、母屋と離れたところに仮小屋を建て、そこに女性がこもって出産するというものである。「隔離・別火」を特徴している。それは出産が不浄であり穢れた行為であるからというものから、「忌の」生活により神の加護のもとに子どもを産むという神聖な行為であるなどの様々な解釈がなされている。それが、この住居では同じ屋根の下、生活の隣に設けられている。こんなのは聞いたことも読んだこともない。
これだから、近所の散歩でも何らかの発見があり、面白い。